帰ってきた開業奮戦記(目黒 瞳)

本サイト連載の「開業奮戦記」でおなじみ、2008年に地元で眼科クリニックを開業した目黒瞳先生。開業からちょうど10年経った今、開業準備中や開業直後の様子を振り返りながら10年後の自分として今思うこと、これから開業しようと考えている後輩に向け伝えたいことを書いていきます。日経メディカル Onlineでも読めない、日経メディカル開業サポートだけの書き下ろし企画です。

第1話 「開業は成功だったのか、失敗だったのか」

2018/11/02 目黒 瞳
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 開業して10年経ちました。「患者さん増えないねえ」と言い続けていましたが、つぶれもせず元気にやっています。10周年のお祝いにお花をいただき院内に飾っていたところ、それを見た患者さんのほうが「私は10年も通っているんですね!」とびっくりしていました。で、以前の連載の読者の方たちは、この開業が成功だったのか、失敗だったのかを一番知りたいと思いますが、個人的には成功でもあり失敗でもあると思います。

成功したと言える条件は人それぞれ

 医師1人、手術をしていない眼科であれば1日に50人程度診察してスタッフは3人~4人、というのが成功イメージと思われますが、当院の患者は多くても1日に30人、スタッフは平均すると1.5人。とても小規模であり、東京都眼科医会が定期的に出している開業データと比較しても、売上はかなり低いほうです(当院より保険点数が低いところがあるのは驚きなのですが、何か事情があるのでしょうね)。経営コンサルタントのような立場の方から見れば、明らかに当院は開業失敗例であると言えるでしょう。

 もちろんもう少し収入があってもいいのになあ、とは思うのですが、一応黒字ですし、外来では自分の得意分野である疾患の患者さん主体に診療を行っていて、他院で治らないと転院してくる患者さんがかなり遠方からも来院してくれるため、自分としては非常に満足の行く診療内容になっています。ちなみに、治ると来なくなるので決して繁盛はしません。そして、診療以外でも、医師としてずっとやりたいと思っていたことが実現し、そちらも仕事として展開していきそうですので(残念ながらあまりお金にはなりませんが)、年をとっても退屈はしないで暮らしていけそうだ、、、と考えると、開業は成功していると言えそうです。もっとも、これは私が独り身で扶養家族もなく、高齢の両親は経済的に独立している(私よりよっぽどお金があります)というのも、理由のひとつとしてあるのでしょうね。

想定患者層と実績の違い

 もう少し診療内容について詳細を見ていくと、厚生労働省の「患者調査」から眼疾患の年齢階層別受療率が計算できるのですが、そこに地域の年齢別人口を掛け合わせると、予測される受診人数のパターンがわかります(これが診療圏調査のもとになっているのでしょうか?)。もちろん住居近くではなく職場近くの眼科を受診したり、遠いところからも受診してきますのでひとつの目安にしかすぎませんが、当院のある区の人口で計算してみると65歳以降の比率が想定患者数では多いことがわかります(図1)。

(図1:平成23年度患者調査(厚生労働省)の眼疾患の年齢階層別受療率と区の年齢階層別人口をかけ合わせたもの)

地点と科目から想定患者数を算出する簡易診療圏調査機能はこちら

 極端に偏っていなければ大体の地域ではこんな曲線になるでしょう。
 一方、図2は当院のある一年間の年齢別受診数を示したグラフですが、図1とかなり異なるパターンとなっています。

(図2:当院の患者数を年代別に図示したもの)

 毎日の外来でも、受診される患者さんは30~50代の人が多いな、という実感はあったのですが、5~9才の子どもが多いのは意外でした(グラフを作るまでわかりませんでした)。学童期には学校健診で視力を測りますので、そのために子どもの患者さんが多いのかとも考えられるのですが、それならどの地域でも子どもが多いはずです。そこで調べてみると、アレルギー疾患、それも重症の子どもの割合が多いのが理由のようです。

 私の得意分野はアレルギー性疾患、ドライアイなのですが、30~50代の患者さんが多いのもそのためです。受診人数のパターンなどを解析すると得意分野の患者さんが多いので、それは目的どおりの外来となっています。ただ眼科は検査をしないと保険点数が増えず、この二つの疾患は検査をすることがほとんどないので、儲かる眼科にはなりません。過去の連載「開業奮戦記(目黒 瞳)」の中でも某教授に「アレルギーとドライアイ専門で開業して、やっていけるとは思えない」と言われましたねえ。ニッチな存在としては成功しているのですが。

 今回振り返ってみて、やはり高齢者の患者さんが少ないな、と思いました。本来眼科は高齢者が多い診療科ですので、今後収入を増やすにはこの年齢層をターゲットにすべきではあります。ただ自ら希望して当院に転院してくる方から他所さまの診療状況を伺うと、矯正視力1.0も出ている白内障の方を毎月診察していたり(毎月診察を受けて点眼しないと失明する、と脅す眼科がまだあります)、緑内障でも今話題の前視野緑内障でもない視神経乳頭陥凹に対して3カ月ごとに視野検査を行っていたり(検査で一番点数高いですからね)する開業医も多いようですが、それは当院の目指すところではありません。

開業について10年後の「今」思うこと

 今後開業する場合、というか医療自体が採算の見合う事業ではありませんので、経営をどう考えていくのか難しい時代だと思います。眼科だけを見てもどんどんできる治療が増えてきていますし、保険収載もされていきます。ただしそれを行うには物や人への経費が必要です。

 正しい(治せる)医療、患者さんの希望する医療、儲かる(経営的に成り立つとも言い換えられますが)医療、というすべてを満たすようにするにはなかなか大変で、どう自分が仕事をしていくか、その中でのバランスを考える感じです。

開業のコンセプトメイク、事業計画は医療コンサル事業者
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著者プロフィール

目黒 瞳(めぐろ ひとみ)氏

●生まれ育った地元で、2008年、眼科を開業。増えない患者数に不安になりつつ、はや10年!
 儲かりはしていないが、「やりたい診療」が出来て黒字ではあるので実は結構満足している。