開業はじめてものがたり

このものがたりは、とある大学病院に勤めていた皮膚科専門医が、ふとしたことから開業を志し、周りの人に助けられつつ悪戦苦闘しながら開業するまで。そして開業してからの様子を、時には感情的に、時には客観的に分析しながら綴った開業体験記です。もともとはタスク管理や備忘録的に始めた雑記でしたが、情報過多の昨今、開業準備の過程で迷う特に女医さんの背中を押すことができればと、ものがたり化しております。乱筆乱文ではありますが、ご愛顧いただければ幸いです。

第4回 不動産選びの長い旅 ~私でなければならない理由~

2018/11/09 港 ひふみ
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担当コンサルタントからの提案

 複数のコンサルタントから「大事なのは物件、どこで開業するか」と言われました。特に「人口増加地域」で「競合が少ないこと」が絶対条件で、駅から近い、通行量の多い通りに面している、学校が近い、公共施設が近い、スーパーが近いといった具体的な条件も教えてもらいました。中には診療圏調査と合わせて具体的な物件を紹介してくれる方もいました。

候補1.「承継案件」

 あるコンサルタントが紹介してくれたのは、現在開業している高齢の医師が後継者不在のため、別の医師に引き継ぎたい「承継案件」です。承継案件の場合、「毎月の処方箋は○枚です」「現在の年間売り上げは7000万円で、売却価格は5000万円」と具体的な数字に基づいて提案がされます。その地域で診療を続けていらっしゃるのですから、長年通う患者さんが既にいます。相応に高い譲渡価格が提示されますが、開業すればきっと上手くいくであろう「保証」のある提案です。

候補2.「幻の医療モール」

 薬局を経営している開業コンサルティング会社が住宅地の真ん中に医療モールを作るので、そこに入居しないかという提案もありました。都心につながる主要鉄道路線で、ここ数年人口が伸びている地域であり、とっても魅力的です。実際に現地に行ってオーナーの方とも面会し、私が提供したい医療についてもお話をしたところ、とても共感していただきました。「ここなら開業に向けて話を進めてもいいのかしら?」と思い、検討を始めた矢先に連絡が入り、「今回のお話はなかったことに」。

 医療モールはもともと薬局の隣に3階建の建物を建設する計画でした。その中には内科、整形外科、耳鼻科、そして私の皮膚科が入居する予定でしたが、医療モールの開発主体となる建設工事会社が「住宅メーカー」だったこともあり「2階と3階には賃貸できる住居を入れて欲しい」という申し入れが。その結果、クリニックは1階のみとスペースが小さくなり皮膚科の場所が無くなってしまいました。今、その建物では内科と整形外科が開院し、とても繁盛しているそうです…。

私でなければならない理由

 患者さんが既にいる承継案件、人口増加地域での医療モール、どれも魅力的な提案でした。「きっとうまくいくだろう」という予感もありました。しかし、私にはピンときませんでした。振り返ると、どちらの提案も「良く」見えたから選ばなかったのだと思います。開業コンサル会社が言う「大事なのは物件、どこで開業するか」につながる「良い場所」なのだからそれに従って決めるべきとも言えますが、そこには「私でなければならない理由」がありませんでした。

 これらの経験を通じて改めて思い直したのが、私は「自分が住む地域」で「症状が軽い段階から相談に乗ってもらえる一般皮膚科」の医療を提供したいんだと。たしかに診療圏調査では需要がとても少ない地域です。でも気軽に行ける皮膚科は見つけられませんでした。開業コンサルティングから提供されるデータも重要だけれども、実際に住んでいる自分の直感を信じても良いのではないか。そう思うように至ったことで、自分の地元で開業したいと意思を固めました。

 それからは、自分で不動産を探すことにしました。不動産探しはまだまだ終わりません。

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(つづく)

著者プロフィール

皮膚科専門医 港 ひふみ(みなと ひふみ)氏

●国立大学医学部卒業後、大学病院皮膚科などに勤務していましたが、最近開業医へ転身した一児の母。
両親や家族が開業医をしていたわけでもなく、強い開業医志向を持っていたわけでもない一人の勤務医が、 日々一喜一憂しながら、地域の皆様に愛されるかかりつけクリニックを目指して奮闘する姿をお伝えします。