開業はじめてものがたり

このものがたりは、とある大学病院に勤めていた皮膚科専門医が、ふとしたことから開業を志し、周りの人に助けられつつ悪戦苦闘しながら開業するまで。そして開業してからの様子を、時には感情的に、時には客観的に分析しながら綴った開業体験記です。もともとはタスク管理や備忘録的に始めた雑記でしたが、情報過多の昨今、開業準備の過程で迷う特に女医さんの背中を押すことができればと、ものがたり化しております。乱筆乱文ではありますが、ご愛顧いただければ幸いです。

第1回 勤務医と開業医 ~子どもが教えてくれた私が提供したい医療~

2018/09/28 港 ひふみ
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はじめに

 みなさん、はじめまして。とある地域に皮膚科を開業する、港ひふみです。国立大学医学部を卒業後、医局に所属して大学病院の皮膚科などで勤務してきました。両親や親族が開業医をしているわけでもありませんし、開業医への強い意欲を最初から持っていたわけではありません。

 いたって普通の勤務医である私が、なぜ開業を志すに至ったのか。この後で詳しく書いていますが、「もっと早く患者さんを診ることができたら」「重症化する前に対処ができたはずなのに」という思いを解決するために取った道が「開業医」でした。

 でも、すんなり開業できたわけではありません。開業にあたっては、雑誌やネット、開業セミナー、周りの先輩・後輩医師など、いろんな情報源があると思います。私が特に参考にしたのは、日経メディカル Onlineの寄稿記事をはじめとした「実際の医師が発信している情報」でした。

 そこでこの連載『クリニック開業はじめてものがたり』でも、「開業してみようと考える医師の方々」に向けて、実際に私が開業に向けて走り続ける過程で起こったことや気づいたことを、できるだけ具体的にお伝えしていきたいと思います。末長くよろしくお願いします。

大学病院勤務時に感じていた、もどかしい思い

 ご存知の通り、大学病院は医療における最後の砦です。最初から大学病院に来る患者さんもいますが、国の政策的にはクリニックなど地域の医療機関で対応ができない難しい疾病や重症の場合に、「紹介状を書いてもらって」かかる患者さんが多いです。

 私が勤めていた大学病院の皮膚科もそうでした。多くの患者さんは、非常に重症化した状態でいらっしゃいます。そうした状況を少しでも良くするのが大学病院の勤務医の仕事になるのですが、本音では「もっと早く診ることができていたら…」と感じていました。

結婚によるライフスタイルの変化

 もどかしさを感じつつも変わらず勤務医を続けていた私でしたが、ライフスタイルに変化がありました。結婚です。幸いなことにすぐに子宝に恵まれ、第一子を出産しました。産休の後は医局にも配慮をしてもらい、育児に配慮した勤務をさせてもらってきました。

子どもが生まれて初めて、一緒に過ごす「今この瞬間」がとても大切なことに気づきました。しかし大学病院に勤務しながらだと「今この瞬間」を大切にできない事態が増えてきました。一緒にいたくても勤務の都合で預けなければならない、そんな時間がどうしても増えていきます。

徐々に「このまま勤務医を続けてもいいのだろうか?」という疑問が増えていきました。ただ、「疑問を感じる」だけで、具体的な行動をしていなかったのですが、ある時、決定的なことが起きました。

子どもが教えてくれた私が本当に提供したい医療

 子育てを通じて近所のママ友パパ友と仲良くなっていましたが、「実はウチの子、皮膚にトラブルを抱えているけど相談できるところがない」と言うのです。重症化する前、症状が軽いうちに診てもらった方がよいので、私も地域の皮膚科を探してみました。ところが、美容系など専門的な皮膚科ばかりで、「症状が軽い段階から相談に乗ってもらえる一般皮膚科」が身近にないのです。

皮膚にトラブルを抱えた子どもたちが周りにいるのに、その悩みに寄り添う人が近くにいないことと、私が大学病院の皮膚科で感じていた「もっと早く診ることができたら」というもどかしい思いが重なりました。そして気づきました。

「私がなればいいんだ」

思い立ったが吉日、地域での開業に向けて走り始めました。が、話はそう簡単には進みませんでした…。

(つづく)

著者プロフィール

皮膚科専門医 港 ひふみ(みなと ひふみ)氏

●国立大学医学部卒業後、大学病院皮膚科などに勤務していましたが、最近開業医へ転身した一児の母。
両親や家族が開業医をしていたわけでもなく、強い開業医志向を持っていたわけでもない一人の勤務医が、 日々一喜一憂しながら、地域の皆様に愛されるかかりつけクリニックを目指して奮闘する姿をお伝えします。