開業奮戦記(目黒 瞳)

「開業のきっかけは?」「開業地域や物件を選ぶポイントは?」「開業資金は?」
「患者は来てくれる?」。理想に向かって診療所開業に踏み切った医師たちが、
日々悩み、悪戦苦闘する様子をリアルにお伝えします。

※本連載は、過去(2008年1月~2009年9月)に「日経メディカル Online」内で掲載したものを、開業後10年を経た著者が一部加筆・修正、当時を思い出しながらの現在の感想を追記したものです。
一部、現在の状況と異なる点が含まれる場合もございますが、掲載当時の読み物としてご一読ください。

第70回 ショックのどん底

2019/01/11 目黒 瞳
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 開業すると、自宅とクリニックの往復が主体の生活。開業時の忙しさがなくなると、ものすごい閉塞感があります。頻繁に行き交っていた業者とのメールや電話もまったくなくなり、来るのは迷惑メールばかり。そしてそれにさえ返事したくなるくらいでした。

 ある日、大学のドクターが集まる会に行く機会がありました。「気分転換になるかも」と期待して出掛けたのですが、世間話から私の開業の話になりました。そこで「患者さんがあんまり増えないんですよねえ」と打ち明けたところ、こんなことを言われてしまいました。

 「まともな診療していたら、やっていけるわけないでしょ。白内障がちょっとでもあれば、視力が良くても薬を出して、毎月来させる。視野検査は月1回は保険で通るからやる。レーザーを買って、ちょっとでも網膜に薄いところがあれば、穴が開いていなくても打つ。前房が浅いならレーザーする」

 「ものもらいごときでも、治るまでは毎日来させる。治ってもいろいろ病名を付けて、薬出して再来させる」

 「3カ月すぎての受診はみな初診にする。3カ月以内でも前回と違う症状なら初診にできる。患者から文句を言われそうなら、窓口負担の少ない患者だけ初診にする。そんなの開業医なら当たり前のことじゃない」

 「だいたい普通の診療だけやっている気がしれないね。そんな普通の眼科に大学から紹介できる患者さんなんていないよ。コンタクトレンズも扱わない、手術もしないなら、サプリメントでも売ったら?」

 こんなことを本当に実践している医者なんていないと信じていますが、何人かに似たようなことを言われてしまい、「今の時代に開業するなら、ここまで考えないといけないのか・・・」と泣く気力も失せました。駅のホームのベンチにぼんやり座って、次の電車には乗るべきなのか、飛び込むべきなのかと考えていたのでした(後から知りましたが、この時期の私は精神的にかなりまずい状態で、周りの人たちも心配していたようです)。

開業後の現在から「この時」を振り返って

10年前の自分に言ってあげたい。「まともな診療してなんとかやっていけているよ。検査を多く行ったり、何度も再診させることもしてないけど大丈夫!」と。
後輩たちが開業すると、うまくいっているのかしら?軌道に乗らず、落ち込んでいたりしないかなあ、と心配になり、患者さんとして受診して様子をうかがったりしています。大きなお世話かとも思いますし、だまって受診するので仰天されますが。

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連載の紹介

※本連載は、過去(2008年1月~2009年9月)に「日経メディカル Online」内で掲載したものを、開業後10年を経た著者が一部加筆・修正、当時を思い出しながらの現在の感想を追記したものです。
一部、現在の状況と異なる点が含まれる場合もございますが、掲載当時の読み物としてご一読ください。

著者プロフィール

目黒 瞳(めぐろ ひとみ)氏

●生まれ育った地元で、2008年、眼科を開業。
 なかなか増えない患者数に不安になりつつ、後進のためになる話を記録に残そうと本連載を執筆。