開業奮戦記(目黒 瞳)

「開業のきっかけは?」「開業地域や物件を選ぶポイントは?」「開業資金は?」
「患者は来てくれる?」。理想に向かって診療所開業に踏み切った医師たちが、
日々悩み、悪戦苦闘する様子をリアルにお伝えします。

※本連載は、過去(2008年1月~2009年9月)に「日経メディカル Online」内で掲載したものを、開業後10年を経た著者が一部加筆・修正、当時を思い出しながらの現在の感想を追記したものです。
一部、現在の状況と異なる点が含まれる場合もございますが、掲載当時の読み物としてご一読ください。

第4回 母の貢献?

2018/06/14 目黒 瞳
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 母曰く、「そんなにわがまま言っているから見つからないのよ! どこでもいいから開業して、いいところが見つかったら移ればいいでしょ!!」

 いえいえ、それにはお金が必要。内装にはお金が100万円単位でかかります。家賃にしても、入るときに1年分に近い金額を保証金として払い、出る場合には前もっての通告が必要です。

 「商店街から住宅街から、毎日足が棒になるまで歩かないから見つからないのよ!もっと努力したら!?」

 えー、それは空き屋になっているところを見かけたら、賃貸物件なのか近所の人に確認してみろ、ってことですかね? 怪しい人になりそう。

 といった会話をひとしきり繰り返していたある日、満面の笑みをうかべた母が、「あんたがなかなか動かないから、別の不動産屋の広告を見て、話つけてきたわよ」

 と、母が示した物件は、地図で見ただけでダメだと分かる物件。地図を読み慣れていた私には、駅から遠すぎることがすぐ分かったのです。しかし、やる気満々の母を説得してもしょうがない。実際に不動産屋さんと見に行くことにしました。

 行ってみると、不動産屋さんは「車出しましょうか?」と言う。もう、そこから既に条件から外れているし…(車で行きたくなるような場所はダメ)。

 「いえ、駅から歩いた感じが分かった方がよいですから」と車を断って、歩き出したのですが、ここは坂の多い街。一緒に歩く母は口数がだんだん少なくなって遅れがちに。見せてもらった物件は、建物としては完璧。20坪、1階、通りに面しています。

 しかし、案の定、駅からはかなり遠いし、一番近い交通手段はバス。駅まで行こうとすると、人通りがほとんどない道を20分近く歩くことになり、冬の日暮れ後に女性スタッフを帰すのは、ちょっと恐いくらいの場所です。商店街といっても小さなお店が数軒ぽつぽつとあるだけ。

 とうとう無言になってしまった(足が痛かったらしい)母に、「ね。ちょっと、いまいちでしょ」と言うと、「うん…」と答えるきり。その後、母が自分で物件を見つけてくることはなくなりました。

開業後の現在から「この時」を振り返って

 この母が見つけてきた物件がどれだったのか、当時歩いたエリアをチェックしても分からなくなってしまいました(お菓子屋さんになったのかなあ??)。いまでもほとんどお店のないエリアです。あ、ちなみに母はまだ生きていて、相変わらず私のやることにケチをつけています。


連載の紹介

※本連載は、過去(2008年1月~2009年9月)に「日経メディカル Online」内で掲載したものを、開業後10年を経た著者が一部加筆・修正、当時を思い出しながらの現在の感想を追記したものです。
一部、現在の状況と異なる点が含まれる場合もございますが、掲載当時の読み物としてご一読ください。

著者プロフィール

目黒 瞳(めぐろ ひとみ)氏

●生まれ育った地元で、2008年、眼科を開業。
 なかなか増えない患者数に不安になりつつ、後進のためになる話を記録に残そうと本連載を執筆。