開業奮戦記(目黒 瞳)

「開業のきっかけは?」「開業地域や物件を選ぶポイントは?」「開業資金は?」
「患者は来てくれる?」。理想に向かって診療所開業に踏み切った医師たちが、
日々悩み、悪戦苦闘する様子をリアルにお伝えします。

※本連載は、過去(2008年1月~2009年9月)に「日経メディカル Online」内で掲載したものを、開業後10年を経た著者が一部加筆・修正、当時を思い出しながらの現在の感想を追記したものです。
一部、現在の状況と異なる点が含まれる場合もございますが、掲載当時の読み物としてご一読ください。

第2回 不動産屋とのすれちがい

2018/05/24 目黒 瞳
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 『20坪、1階もしくはエレベーターのある上階』

が条件なのですが、出てくる物件は10坪という小さいものばかり。もともと小さな商店をビルにすることが多いエリアらしく、面積が小さく、エレベーターがない物件がほとんどです。

 一番の希望が「生まれ育った実家の近くで開業したい」ということなのですが、実はここがなかなか物件の出ない場所。前職場を辞めてから分かりました…。

 不動産屋も数軒当たってみましたが…、

 「10坪で3階と4階。エレベーターがあります」
 (そんな眼科、変じゃないかしら? 部屋の外にエレベーターがあると、別施設扱いになってしまいます)

 「歯科医院が廃業した後なので、使いやすいですよ」
 (そうかなあ…。階段のぼらなきゃダメだし、歯科と眼科が同じ器械を使うと思われているみたい)

 「1階ですよ」
 (確かに1階。でも坂の途中の建物なので、1階なのに階段をのぼらないとダメ)

 挙げ句の果てには、
 「階段が無理なんて患者さん、そんなに来ないでしょ」
 (いえいえ、眼科の主体は60歳以上。以前のバイト先は階段を5段ほど上がるとエレベーターですが、「その5段がつらい」という患者さんが多かったものです)

 「50坪。手術するには最適です。もともと美容整形のクリニックが入っていましたし、きれいですよ」
 (いえ、手術しません)

 ついには、「ビルを買いませんか」という話まで。買ってどうするんだろう??
「人に貸せばいいんですよ」と言われても、ビル貸し業をやりたいわけではないんです。何より、億単位のお金をどうやって工面するのかしらねえ。商店街の知り合いの人が見つけてきてくれるのはうれしいし、彼らに悪気がないのはわかっているのですが、なんだか「医者はとってもお金持ち」という意識が見え隠れします。

 「こんなに家賃の高い物件を借りられるのは、やはりお医者さんしかいないですよねえ」と言われると、何だか不愉快な気持ちになってしまいました。

開業後の現在から「この時」を振り返って

 この10年を振り返ってみても、近隣で20坪一階という物件はほとんどなく、近くのクリニックの院長先生は結局建物を建てて引っ越していきました。そして今の私ならビルを買う気になるかもー(強気)。お金があるわけではなく、借金をして家賃収入で返すのもありかな、と考えるようになっただけです。


連載の紹介

※本連載は、過去(2008年1月~2009年9月)に「日経メディカル Online」内で掲載したものを、開業後10年を経た著者が一部加筆・修正、当時を思い出しながらの現在の感想を追記したものです。
一部、現在の状況と異なる点が含まれる場合もございますが、掲載当時の読み物としてご一読ください。

著者プロフィール

目黒 瞳(めぐろ ひとみ)氏

●生まれ育った地元で、2008年、眼科を開業。
 なかなか増えない患者数に不安になりつつ、後進のためになる話を記録に残そうと本連載を執筆。