建築、内装設計・施工の勘どころ

戸建てにしてもテナント(いわゆるビル診)にしろ、クリニックの「ハコ」にかかる費用は開業時の初期投資額の多くを占めますが、消防法や保健所の対応など専門的な知識が必要な部分も多く、どうしても業者任せになってしまいます。この連載では、クリニック開業時に避けては通れない建築や内装設計・施工に関する、先生も最低限知っておくべき基礎知識から、建築・内装のコスト削減のポイント、科目別のレイアウトの注意点などを、長年医療建築に携わって来た専門家の視点からのアドバイスを交え、解説していきます。

第2回 テナント選定について② ~見落としがちな電気設備について~

2018/12/14 高橋 邦光
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 気に入ったテナントが見つかったとしても、すぐに契約準備に入ると危険な場合が他にもあります。建物の電気設備の状況によっては、そもそもクリニック用途として使えない場合や、かなりの追加費用が発生する場合があるからです。今回は、そんな見落としがちな「電気設備」について解説していきます。

必要な電気容量、確保出来ますか?

 診療科目にもよりますが、クリニックは多くの容量の電気を使用します。一般のビルでは事務所の入居を想定していることが多いため、電気容量不足という問題が生じることがあります。その場合、電気容量アップの工事が必要ですが、分電盤が付いていない場合や分電盤が付いていてもブレーカー数が足りない場合などは新規で設置しなくてはなりません。スケルトン仕様や新築物件で多く見受けられる、分電盤とブレーカーがどちらも付いていない場合には、設置に30~40万円程度かかってしまいます。

また分電盤とブレーカーが付いていても、ビル全体の電気容量が足りない場合は、キュービクル(ビル全体の変電設備、主にビルの屋上や地下に設置されている)の電気容量を増やしたり、キュービクルからテナント区画まで幹線を引き直す作業が必要で、これも金額として20~50万円程度かかる場合が多いのです。

照明は見た目と機能、コストのバランスを

 照明については、以前の蛍光灯や電球に比べ、現在はLEDが一般的になり、省エネで長持ちするので主流になっています。ただ光の加減を調整できる調光式(眼科の診察室・暗室やエコー室などで使用されることが多い)の場合には、従来の電球を使用するほうが微妙な明暗調整がかけられるので使い分けが必要です。

 照明器具も、デザインに特徴を持たせている製品が多いですが、使用場所を割り切って使い方を限定したほうが内装費用の全体のコストパフォーマンスが良くなります。例えば、患者さんが来院し、まず目にする待合室にデザイン性の高い照明器具をつけることには賛成ですが、診察室や処置室に同等の器具を設置しても効果的ではありません。診察室や処置室は医師やスタッフが患者さんの状態をしっかりと診られるように、十分な照度を取ることが重要で、華美な装飾にこだわる必要性が無いからです。

 もっとも、自由診療をメインにするクリニックではこだわる必要があるかもしれませんが、かけるべきところはコストをかけ、必要性が薄い部分にはコストパフォーマンスの優れた器具で対応することでバランスを取るのが全体のコスト管理の鉄則だと考えます。

実は奥が深いコンセント

 コンセントの種類や数についても、自宅やオフィスと違い細心の注意が必要です。まず種類の面では、医療機器の中には大きな電気容量を必要とするものが数多くあり、このような機器用のコンセントは、単独回路と言って分電盤から専用の回路で引いたコンセント(見た目は全く変わらない)にすべきです。なぜなら1つの回路から分岐して複数のコンセントを設置した場合、合計の容量オーバーで突然ブレーカーが落ちてしまうケースがあるためです。もしそうなってしまうと、使用中(治療中)は言うまでもなく、医療機器自体にも多大な影響や損害が出てしまいます。医療施設の設計に精通した設計者や内装業者に依頼される場合には、設置する医療機器名を聞いただけで専用回路が必要かどうかの判断ができると思いますが、もしそうでないなら、事前に医療機器メーカーやディーラーと打ち合わせをすることをお薦めします。

 数の面では、特に受付カウンターには大量のコンセントが必要です。電子カルテや複合機(スキャナー、コピー機、プリンター)、レジスター、無停電装置等々数多くの機器が集約されるからです。コンセント数が少ないと必然的にタコ足配線になり、埃がたまれば発火の原因にもなり、見た目もよくありません。その他、待合室などには各所に予備のコンセントを設置しておけば、掃除機をかける際にも便利で、開院後にウォーターサーバーや空気清浄機、芳香装置などを後付けしたい場合に重宝します。

電気の次の生命線、LANも要チェック!

 最後に、LANについてもお話しします。最近の医療機器はLANを通してネットワークを構築できる製品が多いです。その結果、クリニック内に設置するLANケーブルがかなりの本数となります。内装業者の役目は配管までで、弱電業者と呼ばれるネットワークの専門会社が引き継いで、配線作業を行うのが一般的です。この弱電業者が電話回線、電話機、コピー機などを合わせて準備するケースが多いのですが、内装業者の経験が浅いと、ここで思わぬトラブルの原因になります。

 たとえば、弱電業者が工事に入ろうとすると配管がなされていないので配線ができないケースや、LAN配線の中継地点に電源が無いのでルーターやハブが設置できないなどのトラブルがたびたび生じるのです。ほかにも、後から気がついて(思いついて)BGMスピーカー、ナースコール、呼び出しマイクなども追加すると、その配線は内装や弱電業者の当初の見積もりに含まれていないため、大幅な設計見直しで追加費用が発生してしまうケースもよくあることです。

 新規開業をする医師の方々は、すべてのことが未経験です。関わった会社を信頼するしかないのですが、あまり経験値が低い会社がいるとトラブルに遭遇し、予想外の出費につながるので、できれば開業経験者の話をよく聞き、打ち合わせの際に納得がいくまで質問をすることが重要なポイントです。

著者プロフィール

高橋 邦光(たかはし くにみつ)氏
■株式会社ラカリテ 代表取締役/一般社団法人メディカルスタディ協会 理事長/医業経営研鑽会 会員

●1972年東京生まれ、英国ニューカッスル大学経営学部卒業。内装会社にて積算、現場担当に従事後、2001年に株式会社リチェルカーレを設立。2005年より医療施設設計に携わり、これまでクリニックの建築設計監理・内装設計施工で500件以上の実績がある。2016年に株式会社ラカリテを設立。今後開業を目指すドクターに対しオリジナリティとこれまで以上のクオリティを追求しながらコストを維持した設計を提供。ドクター、スタッフ、患者、それぞれの満足度にこだわった設計を行っている。また各地域で開催されるクリニック開業セミナーでの講師としても活躍中。

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