建築、内装設計・施工の勘どころ

戸建てにしてもテナント(いわゆるビル診)にしろ、クリニックの「ハコ」にかかる費用は開業時の初期投資額の多くを占めますが、消防法や保健所の対応など専門的な知識が必要な部分も多く、どうしても業者任せになってしまいます。この連載では、クリニック開業時に避けては通れない建築や内装設計・施工に関する、先生も最低限知っておくべき基礎知識から、建築・内装のコスト削減のポイント、科目別のレイアウトの注意点などを、長年医療建築に携わって来た専門家の視点からのアドバイスを交え、解説していきます。

第1回 テナント選定について① ~スケルトンと事務所仕様、物件選定の注意点~

2018/11/15 高橋 邦光
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 クリニックの新規開業にあたって、大きな悩みのひとつが「開業場所の選定」です。開業したいエリアに物件がない、希望の面積に足りないなど、様々な理由で妥協を余儀なくされたり、逆に何となく探してみたら希望条件にかなり合致した物件が見つかることもあります。ただ、土地でもテナントでも、せっかく見つけた開業物件が「意図しないところで大きなコストアップにつながる」ことがあり、注意が必要です。
 では、何に注意しながら物件を選べば良いのでしょうか?今回はテナントの種類もふまえて、そのあたりを解説してきます。

どっちがオトク? 「スケルトン」と「事務所仕様」

 まず、テナントを探す上でよく耳にする「スケルトン」と「事務所仕様」という言葉があります。これは物件を借りる際の内部の仕様を表すもので、「スケルトン」とは床・壁・天井が何もない状態を指し、「事務所仕様」はいわゆる事務所のような一段上がったオフィスフロアや空調や天井が造り付けで既設されている状態を指します。一般的に内装コストとしては「事務所仕様」を選ぶ方が安いと思われがちですが、医療施設となると逆になるケースも少なくありません。

 コストが上がる主な理由のひとつに、医療施設は他業種に比べ「室数が多いこと」が挙げられます。室数が多くなると仕切りが多い分、必然的に空調や換気設備、照明器具などが増えてしまします。こういった設備を新設または移設するためには、天井を一度解体したり、補修したり、「スケルトン」の物件では不要な作業(工賃)が発生するため、「事務所仕様」では全体コストが上がってしまうのです。「事務所仕様」の物件でコストダウンを図って開業するのであれば、いかに現状のまま利用するかがポイントになり、対して「スケルトン」の物件の場合では空調や照明器具などがそもそも備わっていないので、その費用をいかに抑えるかがポイントになります。

見落としがちな排水設備

 また、大抵の「事務所仕様」の物件では、専有部ではなく共用部にトイレ・給湯室などがあることが多く、配管の関係から手洗いや流し台の設置位置もかなり限定されるため、希望通りのレイアウトを実現することが困難なケースも少なくありません。対照的に「スケルトン」の場合は、区画内に排水設備が整っていることが多く、手洗いや流し台程度であれば比較的自由な位置に設けることができます。さらに「スケルトン」の物件の中には、床下で自由に配管を行えるよう、共用部よりも床が25cm~30㎝ほど下がっているような物件もあります。昨今の新築医療モールや医療用テナントなどはこのような仕様になっているものが数多くあるため安心ではありますが、テナント物件を探す際には目指す医療施設のイメージを明確に持って、希望に見合ったレイアウトが可能かどうか、検討しながら選ぶことが重要なポイントになってきます。

 別の問題として、テナントではじっくり検討することができず、賃貸借契約を急がされて失敗するケースもよくあります。確かに比較検討は必要ですが、さすがに建物のオーナーや仲介業者も何カ月も仮予約状態で待ってくれません。その間に別の申込者が現れれば当然そちらに話が流れていき、結局、気に入った物件を諦めざるを得ないケースもあるので、やはり決断は早いに越したことはありません。ただ、次に挙げることについては、最低限契約前に確認しておくべきです。

事前確認必須!最も気をつけなければならない問題とは

 それは「消防法上の用途」の問題です。これは不動産業者でも知らないことが多く、後になって大きなトラブルを引き起こす原因にもなるため、特に注意が必要です。理不尽に思うかもしれませんが、実は医療施設が入ることによって、建物全体の消防設備が一般用途と比較して一段階上の基準のものを求められることがあります。消防設備をその基準に見合ったものに変更し、消防法上の用途を変更すればこの問題は解消されるのですが、必ず費用が発生します。では、その費用は誰が負担するのでしょうか。この問題をクリアにせずに賃貸借契約を締結してしまうと、一室借りるだけなのに建物全体の消防設備の負担など、思いもよらない費用を強いられるケースがあるため、絶対に契約前にクリアにしておくべきなのです。

 もちろん、消防法上の用途の確認は実際に物件を見るだけでは判断が難しいことも多く、様々な建物の資料をもとに検証し、管轄の消防暑へ確認を取る必要があるため、できれば専門家の手を借りる方が良いでしょう。そのような観点からも、物件選定はひとりで行うのではなく、専門家にも相談しながら進めていくことをお薦めします。

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著者プロフィール

高橋 邦光(たかはし くにみつ)氏
■株式会社ラカリテ 代表取締役/一般社団法人メディカルスタディ協会 理事長/医業経営研鑽会 会員

●1972年東京生まれ、英国ニューカッスル大学経営学部卒業。内装会社にて積算、現場担当に従事後、2001年に株式会社リチェルカーレを設立。2005年より医療施設設計に携わり、これまでクリニックの建築設計監理・内装設計施工で500件以上の実績がある。2016年に株式会社ラカリテを設立。今後開業を目指すドクターに対しオリジナリティとこれまで以上のクオリティを追求しながらコストを維持した設計を提供。ドクター、スタッフ、患者、それぞれの満足度にこだわった設計を行っている。また各地域で開催されるクリニック開業セミナーでの講師としても活躍中。

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